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「水域」作品紹介 その4 [展覧会 / room]


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「月光」 Moonlight 2015年、油彩・キャンバス、85x66cm
 
 私の干支である兎は、次のようにして私にとってのシンボリックな動物となった。— 昔ペットとして兎を飼っていたが、繁殖して増え過ぎ、また、同系交配によって凶暴になった。それは私がまだ子供の頃のことだった。結局私たち家族は、兎を全て食べてしまった。こうして兎は私の体内に留まったのである。
 
 私は兎を撫でていた感触を覚えている。兎をなだめるために、滝を滑らかに流れ落ちる水をイメージしながら、指で背中を撫でていた感触を。



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ユンチアの作品には昔から良くウサギが登場するのは知っていましたが、まさかこんな裏話があったとは…

今回の「水域」の連作もそうですが、ユンチアの作品にはウサギの他にも様々な動物や植物が登場します。ユンチアは2003年より'Flora and Fauna'(植物相と動物相)と題されたシリーズを繰り返し制作していて、そこではキャンバスに描かれた絵画作品以外にも、動物の骨や卵の殻、貝、蟹の甲羅等の上にペイントを施した立体作品が見られます。こうした生物に対する強い愛着は、子供の頃に家の庭で、ペットの小動物や昆虫、植物と共に多くの時間を過ごしたことに由来すると、以前AAAのインタビューの中でも言及していて、『その庭は早くから私にとって自己完結した生態系を現していて、私の想像力はその中で暮し、遊ぶことで成長することができたのです。』と語っています。また、動物の骨や貝殻を素材として使用することに関しては、誰も欲しがらない無価値な『死んだもの』を、作品として甦らせることに興味があるのだと述べています。

描かれた絵の内容を見ても、使用される素材を取ってもどこか魔術的な気配が感じられるユンチアの作品ですが、先のインタビューの中には、このことに関しても理解する鍵となる箇所があります。それはジェイムズ・エルキンスというアメリカの美術史研究家の 'What Painting Is' という著書に触れた部分で、絵画と錬金術の類似性について書かれたその絵画論に、ユンチアは多大な影響を受けたと述べています。この本は、従来のように完成された絵を分析するのではなく、中世の錬金術を引き合いにしながら、制作の過程および用いられる素材の重要性に焦点を当てながら絵画を論じたものです。またこれに関連して、ユンチアがアクリル系顔料を使わずに油絵の具に固執する理由として、引続きこう述べています。『油絵の具は、亜麻仁油と土壌から採取された色素という、共に古代から存在する天然の素材を混ぜ合わせて作られたものです。一方、石油化学工業時代の副産物であるアクリル絵の具は(魔力を失した)プラスチックに過ぎません。』

ところで絵の具の素材を吟味するどころか、インターネットの画像検索で作品を見ることが増えた現代では、美術作品が持つ魔術的な力を感じる機会はますます少なくなってきた様に思われます。少し余談となりますが、ポール・オースターの小説「ムーン・パレス」の中で、主人公の青年が雇い主の老人の命令で、ブルックリン美術館に1枚の絵を見に行くエピソードがあります。老人は青年に対し、美術館へ行く地下鉄の中での振舞いから絵の見方に至るまで、あたかも何かの儀式であるかのように事細かな指示を与えますが、あるいはこの過程は、その絵に秘められた魔力を真に見極める心構えを整えるために必要なルーティーンとして与えられたかのようにも思えます。アート作品が持つ魔法は、作る側と見る側の両者が共に信じることにより初めて出現するのではないかな、とふと思いました。奇しくも小説に登場するその絵のタイトルは、上のユンチアの作品と同じ 'Moonlight' です。

チャン・ユンチア個展「水域」は、明日28日(日)が最終日となります。ぜひお立ち寄り下さい。


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